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日々の学習、ときどき雑談

六亲不认

六亲不认 [ liù qīn bù rèn ]

自分の親族すら認識しない、という意味から、人の道に外れた、無道な、冷酷非情な、情知らずの、というような意味。

「六亲」って具体的にどの親族ですか、というのは現代中国人も疑問に思うところらしく、ネットで検索すると質問がごろごろ。
しかし答えは案外難しいようだ。「六亲」という言葉は古くからあるが、文献によって指す対象が違う。
結局、現代人としては漠然と「親戚」ということでいいようなのだが。

・父子、兄弟、夫婦
老子』には「六親不和有孝慈,国家昏乱有忠臣」とあり、これに対する王弼の注に「六親,父子、兄弟、夫婦也」とある。父子、兄弟、夫婦であるという説。
後漢書』循吏伝の秦彭の項に「定六親長幼之礼」とあり、そこの李賢による注も同じ。

・父子兄弟夫婦その他幅広く親戚
『春秋左氏伝』昭公二十五年に「為父子、兄弟、姊姑、甥舅、婚媾、姻亜,以象天明」とある。「姊姑」「甥舅」「婚媾」「姻亜」などややこしいが、父子や兄弟や配偶者だけでなく、父の親族、母の親族、妻の親族、夫の親族などを幅広く含むということらしい。

・父母、兄弟、妻子
漢書』賈誼伝に「以承祖廟,以奉六親,至孝也」とあり、それに対する顔師古の注に、応劭を引いて「六親、父母、兄弟、妻子也」と。

・五世代以内の父系男子全部?
漢代の賈誼による『新書』六術篇に、「戚属以六為法,人有六親,六親始曰父,父有二子,二子為昆弟;昆弟又有子,子従父而為昆弟,故為従父昆弟;従父昆弟又有子,子従祖而昆弟,故為従祖昆弟;従祖昆弟又有子,子以曽祖而昆弟,故為曽祖昆弟;曾祖昆弟又有子,子為族兄弟。務於六,此之謂六親。」
父を同じくする兄弟に始まり、父の父を同じくする男子、父の父の父を同じくする男子……と五世代以内の父系男子全員を指す、ということでいいのかな? 間違っていたらご指摘を。
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この『新書』の例はあまりにも極端だが、伝統的中国社会で主流だった家族システムは、かなり典型的な父系主義。実態はともかく、建前としては母方や妻の親族の重要度は低い。
また中国に限らないが、古典の世界は基本的に男性中心で、女性は存在すら記されないことが多い。中国の史書などで「一子」がいたと書いてあったら、男の子が一人ということだ。他に女の子が十人いたとしても「一子」なのである。
現在の日本語では「子」は性別を問わず「子ども」を指すようになっているが、漢字の本来の意味は「息子」であり、「娘」は「女」として区別されていた。「子女」という言葉はその名残りで、「子」や「女」、息子や娘、という意味である。

「六亲不认」。私は反家族主義者なので、親族と縁が薄いだけで人でなしとはなんだ、家族と仲が悪くても心優しく、他人とうまくやっている人はたくさんいる、といろいろ言いたいことも出てくるが、家族(その定義や範囲は多様でも)を最も重要な人間関係とする考え方は、多くの人が時代や地域を超えて共有してきたのだろう。それがこういう成語にも反映されている。