「中国語」とか、「漢文」とか

日々の学習、ときどき雑談

王吉賢さんのYouTubeチャンネル

戦争の続くウクライナオデッサから、毎日のように中国語で動画を発信してくれている王吉賢さん。

王吉賢さんのYouTubeチャンネル
https://youtube.com/c/hellojixin

王さんはたまたまウクライナで働いていて戦争が始まったため、自分が元気でいることや周囲の様子を伝えようと抖音で動画を発信していた。それが中国で注目され、中国国内では主流のロシア応援の論調と違っていたために炎上。多くの非難を浴びただけでなく、中国内SNSのアカウントを当局に削除されてしまった。微信が使えなくなり、中国の家族とも直接連絡が取れなくなったという。

この人のことは下の報道で知った。

戦禍のウクライナから発信する中国人ブロガー、「国の裏切り者」の非難(CNN日本版 3月19日)
https://www.cnn.co.jp/tech/35185126.html

中国内向けの発信手段は奪われてしまったが、王さんは今もYouTubeで毎日のように動画を公開し続けている。見てみると、オデッサの現地の様子を直接伝えてくれる貴重な報告であるだけでなく、個々の市民の生命や生活を愛し、それを破壊する戦争に怒る誠実な態度が伝わってくる。

今回のウクライナとロシアの戦争に対して、中国政府はロシア寄り中立といった立場を取り続けている。中国政府も内部ではロシアに加担した場合のリスク等を考えて対応に苦慮しているのではないかと思うが、政府広報やその誘導を受けた表向きの世論は全体的にロシア支持と言っていい。もともと近年の中国の言論は米国への対抗意識が非常に強く、その結果、米国やNATOと敵対しているロシアは「敵の敵は味方」でとりあえず応援ということになってしまうようだ。
今回の戦争で、ロシア国内の報道が外の世界とは全く違うこと、ネットで情報収集できる人と国営放送だけ見ている人の間に深刻な断絶があることが話題になっている。これで言うと、中国内の報道と世論も日本で目にするものとは大きく違うし、統制の度合いはおそらくロシアより強い。中国内ではネットが使えても、VPNまで使わない限り国外の報道に直接触れることは難しい。ロシアは戦争が始まってようやく海外メディアがネットから遮断され始めたようだが、中国はもうずっと前から金盾で遮断されているのだ。

王さんの現在の中国語での発信は、中国国内の報道や世論への反論を意図しているところがある(YouTubeでしか見られないので最も届けたい層には届かなくなってしまっているが)。しかし反論する場合も、王さんの口調は時に諄々と諭すように、時にユーモアを交えて、思考の柔軟さと心の温かさを感じさせる。
王さんのチャンネルを知ってから私も時間のある時に見ているが、中国語の聞き取りの練習(王さんは北京人で、巻き舌の多い北京弁部分はちょっと聞き取りにくい)をしながら、現在のオデッサの様子とロシア・ウクライナ戦争に対する中国内世論の様子を同時に知ることができ、王さんの語りの内容も純粋に面白い、という一粒で何度もおいしい動画だと思う。
王さんがオデッサで無事なまま動画を公開し続けられること、そして一日も早く、戦争ではなく仕事や趣味の日常の話をテーマに動画を作れるようになることを願う。