「中国語」とか、「漢文」とか

日々の学習、ときどき雑談

「七光り」、「えこひいき」

「七光り」「えこひいき」という日本語特有の言い回しがエヴァ新劇場版「破」の字幕でこう訳されていましたよ、という話。

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あれがえこひいきで選ばれた零号機パイロット……
他就是走后门进来的零号机驾驶员啊

「后门」は日本語にもある「裏口」という意味で、「走后门进来」は裏口から入って来たということ。つまり「えこひいき」とはちょっと違うのだが、気に入られた結果そのコネで、と考えればまあ重なる。
「えこひいき」を辞書で引くと出てくるのは「偏心」「偏袒」などの訳語。
用例
遇到偏心的老师怎么办?(えこひいきする先生にあたったらどうする?)
为啥有的妈妈明明偏袒小的,却说自己偏袒大的多一点?(どう見ても下の子をひいきしてるのに、自分では上の子の方をひいきしてると言う母親がいるのはなんで?)

ただネットでいくつか用例を見ていると、「偏袒」は「えこひいき」ほど常に悪い意味で使われてはいないような印象。場合によって、特別にかわいがる、(不公平に)味方する、肩を持つ、溺愛する、甘やかす、などなどの訳になりそう。
例:这么小的小孩没人偏袒真可怜(こんなに小さい子を誰もかばってあげないなんてかわいそう)

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で、どれが七光りで選ばれた初号機パイロット?
哪位是靠关系才被选上的初号机驾驶员啊

「靠关系」も直訳すれば「関係を頼って」、つまりコネでという意味。「七光り」を辞書で引くと、
父親の七光り→借父亲的威望
のように訳されていたりする。一語でぴったりはまる訳語というのはなさそうだ。「余荫 yú yīn 」「荫庇 yìn bì」(「荫」は一声と四声があるんだな)などの語が親や先祖から残された恩恵という意味で挙げられているが、やや古風な表現で、「七光り」ほど悪口限定ではなさそうな感じ。

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所詮、七光りね
真不愧是关系户啊

「不愧是〜〜」というのはよく「さすが〜〜」の訳に使われる表現。〜〜を入れ替えれば幅広く使えるので便利。ここは「所詮」の訳になっていて微妙に意味がずれている、というか嫌味の度が増してないか? 「さっすが七光りね!」みたいな感じになっている。「所詮、七光りね」をそのまま訳すなら「果然是关系户啊」や「还是关系户啊」でいいような気がするがどうだろう。「果然」や「还是」は日本語の「やはり」を訳す時によく使われる語。
「七光り」はここでは「关系户」という名詞に。他の場面でアスカが「七光り!」とシンジを呼ぶところでは、字幕は「靠关系!」だった。呼びかけにも使えるらしい。(現実生活で使うことはまずない、というか絶対に使ってはいけない。)