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日々の学習、ときどき雑談

對雪(杜甫)

これも雪の詩。とはいえこの時の作者には雪を美的に鑑賞するような余裕はなかった模様。

(原文)
對雪

戰哭多新鬼、愁吟獨老翁。
亂雲低薄暮、急雪舞迴風。
瓢棄尊無綠、爐存火似紅。
數州消息斷、愁坐正書空。

(拼音)
duì xuě

zhàn kū duō xīn guǐ , chóu yín dú lǎo wēng 。
luàn yún dī bó mù , jí xuě wǔ huí fēng 。
piáo qì zūn wú lǜ , lú cún huǒ sì hóng 。
shù zhōu xiāo xī duàn , chóu zuò zhèng shū kōng 。

(訳)
戦場を哭く声で満たしているのは新たに死んで鬼となった者たち、ここで愁いつつ詩を吟じているのは孤独な老人だ。
乱れた雲が夕暮れに低くたれこめ、激しさを増す雪が巻き上がる風に舞う。
ひさごは打ち捨てられ樽に緑の酒はなく、炉に残された火がかすかに赤い。
いくつかの州からは消息が途絶え、私は愁いつつかつての殷浩のように宙に文字を書いている。

(注)
新鬼  新しく死んで亡霊となった者。
低  訓読では「低る(たる)」と読む。垂れ下がる。
薄暮  夕暮れ。黄昏。
瓢  酒を入れるひさご。
尊  ここでは「樽」に同じ。酒などを入れる容器。
綠  酒の色が緑とされていたことから、「緑」一字で酒のこと。先日紹介した白居易の「問劉十九」にも緑の酒と赤い炉の火が出てきた。
https://anatadehanai.hatenablog.com/entry/2021/01/10/225421
數州消息斷  戦乱によりいくつかの州から情報が入らなくなった。
書空  晋の殷浩が左遷された後、終日空中に指で「咄咄怪事」と書いていたという故事より。
「咄咄怪事」
https://anatadehanai.hatenablog.com/entry/2021/02/06/235805

唐の粛宗の代、至徳元載(756年)冬の作。この前年に安禄山が挙兵し、歴史上著名な安史の乱が始まった。唐の官軍と安禄山の反乱軍との戦闘が続き、756年6月には反乱軍によって長安が占領され、玄宗が都を捨てて逃走する事態になった。
杜甫長安から皇帝の逃亡先に向かおうとしたが、反乱軍によって長安に足止めされる。756年秋には宰相房琯率いる官軍が陳陶斜、青阪で反乱軍に敗れたという報せが入った。この詩はそのような状況の中で書かれたもの。

(参考)
https://fanti.dugushici.com/ancient_proses/10611
http://www5a.biglobe.ne.jp/~shici/shi4_08/rs543.htm

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