「中国語」とか、「漢文」とか

日々の学習、ときどき雑談

稚子弄氷(楊万里)

寒い日が続き、私のいる地域では公園の池がすっかり凍っています。そこで氷の出てくる古詩を一首。

稚子弄冰

稚子金盆脫曉冰,
彩絲穿取當銀錚。
敲成玉磬穿林響,
忽作玻璃碎地聲。

zhì zǐ nòng bīng

zhì zǐ jīn pén tuō xiǎo bīng
cǎi sī chuān qǔ dāng yín zhēng
qiāo chéng yù qìng chuān lín xiǎng
hū zuò bō li suì dì shēng

(訳)
小さな子どもが金色の盥から
丸く凍った朝の氷を取り出す。
色あざやかな糸を通して
銀色の鉦のようにぶらさげる。
叩けば玉の磬のような音が
林を縫って響きわたる。
そして突然水晶が落っこちて
砕けてしまった音が聞こえる。

(注)
盆  日本語の「盆」ではなくたらいのイメージ。水をためる丸い容器。
錚  「鉦」とする版本もある。「鉦」は日本語で「かね」と読み銅鑼のような丸い金属製の打楽器を指すが、ここの意味も同様。「彩絲穿取」(色糸を通して)とあることから、紐で提げて手に持つ図のようなタイプのものだろう。
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磬  日本語の音読みは「ケイ」。磬は中国で最も歴史のある打楽器の一つで、「へ」の形をした石板を叩いて音を出す。さらにそれを複数並べて吊るし、「编磬」として広い音域の演奏が可能な打楽器とされていた。有名なものに東周期の遺跡曾侯乙墓から出土した曾侯乙编磬がある。
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この詩の中では、単に玉でできた磬のような澄んだ音、ということだろう。
玻璃  「玻瓈」とする版本もある。「玻璃」は現代中国語ではガラスを指すが、ここでは「水玉」(水晶)のことという。

(作者)
楊万里(1127-1206年)
字は廷秀、号は誠斎。吉州吉水(現在の江西省吉水県)の人。
南宋の著名な詩人かつ官僚で、尤袤、范成大、陸遊とともに南宋の「中興四大詩人」「南宋四大家」と呼ばれる。生涯に二万首あまりの詩を作ったといわれ、そのうち四千二百首ほどが『誠斎集』にまとめられ伝わる。作風は平明で自然の描写や庶民の生活を歌ったものが多く、「誠斎体」として後世に影響を与えた。

(参照)
https://fanti.dugushici.com/ancient_proses/70686
https://m.gushiwen.org/shiwenv_4bb194abd528.aspx


中国の小学校教科書に載っていて広く親しまれているようです。たしかに、平明な中に生活の細部や子どもへの温かい視線が感じられる佳作ですね。

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